近年、ヒトだけでなくワンちゃんにおいても苦しんでいる患者さんが多くいるアトピー性皮膚炎ですが、その治療例について少しずつ紹介していこうと思います。
ゴールデンレトリバーのSちゃんは3歳のころ、お腹に痒みを伴う湿疹ができ始めました。
1番目の病院
最初にかかった病院で抗生剤による治療を行い、一旦は治るものの、再発を繰り返してしまう状態でなかなか解決しないため次の病院を受診しました。
2番目の病院
2番目の病院ではダニによる皮膚炎を疑い、注射による治療も行いましたが一向に良くなりません。
3番目の病院
3番目にかかった病院ではカビの検査、ダニの検査、血液検査も行いましたが、特別な原因は見当たらないため、アトピー性皮膚炎として抗生剤やステロイドによる治療を始めました。
4番目の病院
それなりの効果はありましたが、ステロイドによる治療を続けることに疑問があった飼い主様は次の病院を受診しました。
ここでは皮膚の細菌に対してどの抗生剤が効くかを調べてもらいましたが、これまでたくさんの種類の抗生剤を使ってきたSちゃんの皮膚には耐性菌ができてしまっており、使える抗生剤がほとんどありませんでした。仕方なく、シャンプーを1週間に1~2回、外用薬も用いて抑える治療をしていましたが、痒みや湿疹はなかなかおさまらず、つらい日々が続きました。
5番目の病院
どうしてもSちゃんのつらい痒みをなんとかしてあげたい飼い主様はトリミングを併設して薬浴治療をしている当院を見つけ、受診されました。
まず皮膚の状態を確認すると、腹部を中心に広い範囲で湿疹・脱毛があり、口周りにも赤みのある脱毛が見られました。痒みは見た目以上に強いようで、いつもカリカリ掻いている状態です。これまでに一通りの検査はしているため、耐性菌による膿皮症+アトピー性皮膚炎と仮診断しました。
治療として最初に考えたのは耐性菌を薬用シャンプーで減らし、炎症を抑えて皮膚のバリアを強くすること。そのために1~2週間に1回薬浴治療に通っていただき、内服はステロイドとシクロスポリンの併用で開始しました(シクロスポリンは効果が出るまで3週間ほどかかるため)。本来なら費用がそれなりにかかってしまう治療ですが、幸いこのコはペット保険に入っていたため薬浴料と内服薬はともに半額以下に抑えることができました。
治療開始からすぐに痒みが10~20%まで治まり、湿疹も減少。調子がいいのでステロイドを減らしつつ、シャンプーも自宅でしていただくようにしました。ステロイドを完全に切るのに3か月近くかかりましたが、シクロスポリンだけでも十分コントロール可能なところまで改善し、4か月後には1日1回だったシクロスポリンを2日に1回まで減薬に成功。今では症状が多少残るものの、痒みが少ない生活を維持できています。
そして今月、治療費を抑えつつもっといい状態を目指すために、アトピー性皮膚炎の新薬であるオクラシチニブマレイン酸塩(アポキル錠)へと変更を試しているところです。
いくつもの病院を受診しながらあきらめなかったSちゃんの飼い主様は今の治療にとても満足しておられ、同じように苦しんでおられる他のワンちゃんや飼い主様にもこのことを伝えてあげたいとのご希望で今回の記事を書くことにしました。もし、治らない皮膚炎やステロイド治療でお悩みの方はぜひ一度ご相談ください。