前回までの記事では、「猫が本来どんな食性を持つ動物なのか」「動物性タンパク質の質でフードの良し悪しが大きく変わる」という内容をお話ししました。
今回は、飼い主さんから最も質問が多いテーマのひとつ、
「なぜ完全肉食動物である猫のフードに、植物性原材料がこんなに多く使われているの?」
という“根本的な疑問”に踏み込みます。
実はこれは、メーカー側の都合・製造面の事情・栄養学的背景が複雑に絡んだ問題であり、理由を知ることでラベルの“違和感”が驚くほど理解できるようになります。
1|キャットフードに植物性原材料が使われる“本当の理由”
キャットフードの原材料表を見ると、トウモロコシ・小麦・大豆・えんどう豆など、植物性の食材が多く使われているものが少なくありません。
しかしその多くは、猫の生理学に合っているからではなく、メーカー側の事情で使われているケースがほとんどです。
2|メーカー側の都合と栄養学的な背景
●① 価格を安定させるため
肉や魚は価格変動が激しく、天候・漁獲量・輸入状況に左右されます。
一方、植物性原材料は 大量生産が可能で、価格が安定しやすい。
→ つまり、メーカーにとっては“コストコントロールしやすい”食材。
●② 形状を保つためのつなぎ・加工上の必要
ドライフードは、高温高圧で押し固める「エクストルーダー製法」で作られます。
このとき植物性原材料(特にでんぷん質)があると、
- 粒が固まりやすい
- 割れにくいペレットが作れる
- 歯で噛んだときの硬さを均一にできる
といった“技術的メリット”があります。
●③ 栄養成分値の調整のため
AAFCOやFEDIAFの栄養基準を満たすには、
たんぱく質・脂質・食物繊維・ミネラルなどの比率を調整する必要があります。
植物性原材料は、この調整をしやすいという背景があります。
3|コスト調整としての“かさ増し”の実態
植物性原材料が多く使われる理由で、最も大きいのはこれです。
●肉よりはるかに安い
原価が安いため、
「原材料のかさ増し(ボリューム調整)」として使われることが多いのが実情です。
問題は、
原材料の上位に植物性がずらっと並ぶフードは、肉量が少ない可能性が高い
ということ。
つまり、猫本来の食性からは大きく外れてしまいます。
4|植物性タンパク質が増えることで起こりやすいトラブル
猫は完全肉食動物であり、植物性タンパク質は本来得意ではありません。
そのため植物性原材料が多いフードでは、次のような問題が起こりやすくなります。
●① 消化不良・軟便
豆類・穀類は猫の消化酵素では分解されにくく、
未消化物が腸に残る → 軟便・ガス・腹部不快感につながる。
●② 食物アレルギー
大豆・小麦・トウモロコシはアレルゲンとして有名。
アレルギーのある猫では、皮膚炎・痒み・涙やけ・慢性下痢などが起きることも。
●③ 必須アミノ酸の不足リスク
猫に必須のアミノ酸(タウリン・アルギニンなど)は動物性に豊富。
植物性が増えるほど、アミノ酸バランスが崩れやすい。
5|グレインフリーでも植物性原材料が多くなるケース
「グレインフリー=肉が多い」と思われがちですが、
実はそうとは限りません。
穀物を使えないため、その代わりに
- えんどう豆
- ひよこ豆
- じゃがいも
- タピオカ
などの “別の植物性原材料でかさ増し” を行うメーカーも多いのです。
つまり、
グレインフリーでも“肉たっぷり”ではないことがある。
ここは多くの飼い主さんが誤解しやすいポイントです。
6|獣医師として必ず確認しているポイント
猫の健康を守るために、私がラベルを見るときに必ずチェックしている点は次の5つです。
① 原材料の最初の5つに「動物性」がどれだけ入っているか
ここはフードの“本質”がわかる部分。
② 植物性原材料の量が不自然に多くないか
特に豆類・でんぷん類が多い場合は注意。
③ 動物性タンパク質の“質”
「生肉/生魚」がどれだけ使われているか。
“ミール”が使われている場合は、その質を見極める。
④ グレインフリーの“代わりに何が使われているか”
豆や芋でかさ増しされていないかは重要ポイント。
⑤ 成分分析値のタンパク質比率
タンパク質が多くても、
植物性由来が多いと猫には適していない場合がある。
まとめ
猫は“完全肉食動物”。
しかし、市販の多くのフードには植物性原材料が使われています。
その理由は、
- 製造しやすさ
- コストの安定
- 栄養値の調整
- かさ増しのためのボリューム確保
といった メーカー側の事情 が大部分を占めています。
今回のポイントを理解しておくと、
ラベルを見た瞬間に「このフードの中身の質」がわかるようになります。
【次回予告】
愛猫にとって最適なキャットフードとは?⑤|良質なキャットフードはどこが違う?
次回のテーマは、いよいよシリーズの核心ともいえる
「本当に良質なキャットフードは何が違うのか?」
というポイントに踏み込みます。
市販フードにはさまざまなタイプがありますが、
よく見ると “良いフードに共通する特徴” がいくつも存在します。
例えば——
- 原材料の“質”と“配合バランス”の違い
- 表記のどこを見れば「肉の量」が実は分かるのか
- 同じ“高タンパク”でも中身に大きな差が出る理由
- 価格と品質の関係に潜む落とし穴
これらを知ることで、
「何となく良さそう」→「なぜこのフードが良いのか明確に分かる」
というレベルにステップアップできます。
愛猫の健康寿命を左右する大切な“食事の質”。
その違いを、栄養学・臨床経験・原材料の視点からわかりやすく整理して解説します。
臨床獣医師として
“本当に安心しておすすめできるフードだけ”を厳選しました。
BASE|猫用フードカテゴリ
(アカナ・オリジンを中心に、全年齢対応・低GI・高タンパクのフードを厳選しています)
筆者プロフィール
筆者:亀森 直(かめもり なお)
獣医学博士。臨床獣医師として22年、動物病院の院長として16年の経験を持つ。
犬猫の栄養学・消化生理・腸内環境の研究を専門にし、病気予防を目的とした食事指導を多数行う。
岡山県にて「動物病院・トリミング・ペットホテル・保護猫カフェ」を複合的に運営。
自身の長年の臨床経験と科学的根拠に基づき、“本当に良いフードとは何か”を一般の飼い主にわかりやすく発信している。
