前回の記事では、「ラベルから読み取れる情報」や「動物性タンパク質の質」についてお話ししました。
今回は、飼い主さんからとても質問の多い
- 植物性タンパク質はなぜ注意が必要なのか
- 添加物のメリット・デメリット
- グレインフリーという言葉の“落とし穴”
- 安いフードが健康に与える影響
- 獣医師として必ずチェックしている3つのポイント
について、もう一歩踏み込んで解説していきます。
1.植物性タンパク質はなぜ注意が必要?
まず大前提として、**猫は“完全な肉食動物(真性肉食動物)”**です。
体の構造も、消化酵素も、「動物由来のタンパク質」を前提として設計されています。
ところが、市販のフードの中には
- エンドウ豆タンパク(ピープロテイン)
- 大豆タンパク
- コーングルテンミール
などの植物性タンパク質が多く使われているものが少なくありません。
● 動物性タンパク質との違い
植物性タンパク質が「絶対に悪い」というわけではありませんが、猫にとっては次のような問題があります。
- 消化吸収性が、良質な動物性タンパク質より劣ることが多い
- 必須アミノ酸のバランスが、猫の必要とするものとずれている
- タウリン・アラキドン酸など、猫に必須の栄養素を補いにくい
その結果として、
- 筋肉量が落ちやすい
- 毛艶がいまひとつ整わない
- 太っているのに中身(筋肉)はスカスカ、という体型になりやすい
といった状態につながることがあります。
● “タンパク質量”だけでは判断できない
ラベルに「粗タンパク質○%」と書いてあっても、
そのタンパク質が
動物由来のものなのか
植物由来のものなのか
によって、体にとっての価値は大きく変わります。
- 原材料の最初のほうに、しっかり「肉・魚・内臓」が並んでいるか
- 植物性タンパクが「かさ増し」に使われていないか
は、必ずチェックしたいポイントです。
2.添加物のメリット・デメリット
「添加物=悪」と考えてしまいがちですが、実はメリットもデメリットもあるのが現実です。
● 添加物の“メリット”
- 酸化防止剤:油脂の酸化を防ぎ、フードの安全性と保存性を高める
- 保存料:カビや細菌の増殖を抑え、食中毒のリスクを減らす
- 嗜好性アップのための香料・フレーバー:食べムラのある猫が食べやすくなる
つまり、「適切に使われることで、むしろ安全性が高まる」添加物もあるということです。
● 添加物の“デメリット”・注意点
一方で、
- 一部の合成酸化防止剤(BHA、BHTなど)は、長期摂取への不安から敬遠されることがある
- 香料や着色料が多用されることで、「原材料そのものの質」をごまかしているケースもある
- アレルギーの原因となる可能性がゼロではない
といった懸念もあります。
● どう考えればいい?
私自身は、
「できるだけシンプルなレシピで、必要最低限の添加物に抑えられているか」
を基準に見ています。
- ビタミン・ミネラルなどの栄養強化目的
- 天然由来の酸化防止剤(ミックストコフェロールなど)
といった“理由のはっきりした添加物”にとどまっているフードは、比較的安心して使いやすいと考えています。
3.グレインフリーの落とし穴
「グレインフリー(穀物不使用)」という言葉は、とても魅力的に聞こえますよね。
しかし、「グレインフリーだから安心」とは限りません。
● 穀物の代わりに“何が”入っているか?
穀物を抜いた代わりに、
- ジャガイモ
- サツマイモ
- タピオカ
- エンドウ豆、ヒヨコ豆 など
“炭水化物としての役割は同じ”ような原材料が、たっぷり入っていることがあります。
グレインフリー = 低炭水化物
ではありません。
実際には、
グレインフリーでも炭水化物量がかなり多いフードも存在します。
● 大事なのは“ラベルの言葉”ではなく“中身”
「グレインフリー」という言葉は、マーケティングとして使われることも多く、
本当に注目すべきなのは、
- 動物性原材料がどれくらい入っているか
- 炭水化物が全体のどの程度を占めているか
- その子の体質・病気との相性はどうか
といった中身の部分です。
グレインフリー自体が悪いわけではありませんが、
「グレインフリー=とりあえず安心」と思い込んでしまうのは、少し危険です。
4.安いフードが健康に与える影響
「家計のことを考えると、高いフードはなかなか続かない…」
そう感じている飼い主さんも多いと思います。
安価なフードがすべて悪いわけではありませんが、一般的な傾向として、
- 植物性原材料や炭水化物が多く、動物性タンパク質が少なめ
- “ミール”や“副産物”など、原材料の質がピンキリ
- 嗜好性を上げるための香料・脂肪・添加物に頼りがち
といった特徴を持つものが多くなります。
● 長期的に起こりやすいリスク
- 肥満、筋肉量の低下
- 毛艶の低下、フケ、皮膚トラブル
- 尿路トラブル(結石・膀胱炎など)のリスク上昇
- シニア期に入ったときの代謝・腎臓への負担
もちろん、フードだけが原因ではありませんが、
**「毎日、何年も続けて口にするもの」**だからこそ、
“多少の価格差が、将来の健康状態の差になって返ってくる”ことは、臨床現場でもよく感じるところです。
● 予算が限られている場合の考え方
それでも現実的には、フードにかけられるお金には限界がありますよね。
そんなとき、私がよくお伝えするのは、
- 同じ価格帯の中でも、できるだけ「動物性原材料の多いもの」を選ぶ
- 可能であれば、一部を高品質なウェットフードやトリーツに置き換えて“質を補う”
- おやつの量を見直し、その分フードの質に回す
といった工夫です。
「全部を最高級にしないとダメ」ではなく、**“できる範囲で質を底上げする”**発想が大切です。
5.獣医師が必ずチェックしている“3つの基準”
最後に、私がフードを見るときに必ずチェックしているポイントを3つご紹介します。
① 原材料の“最初の5つ”
ラベルの原材料は、多い順番に書かれます。
- 最初の1〜3番目に、しっかり「肉・魚・内臓」が来ているか
- 植物性原材料や穀類、でんぷん源がずらっと並んでいないか
ここを見るだけでも、そのフードの「軸」が見えてきます。
② 成分バランス(タンパク質・脂質・炭水化物)
猫にとって理想的なのは、
- 高タンパク
- 適度な脂質
- 低炭水化物
というバランスです。
炭水化物量はラベルに直接は書かれていませんが、
100 −(粗タンパク質+粗脂肪+粗繊維+灰分+水分)
で大まかに推測できます。
ここがあまりにも高い(30〜40%以上)場合は、注意が必要です。
③ その子の「今の状態」と合っているか
- 年齢(成長期・成猫・シニア)
- 避妊・去勢の有無
- 持病(腎臓、尿路、アレルギーなど)の有無
- 体型(痩せ気味か、太り気味か)
いくら良いフードでも、その子の状態に合っていなければ“良い選択”とは言えません。
「ラベル上は完璧に見えるフード」よりも、
**“うちの子に合っているかどうか”**を一緒に考えていくのが、獣医師の役割だと思っています。
まとめ|“完璧”よりも“より良い一歩”を
市販のキャットフードには、本当にたくさんの種類があります。
すべてを完璧に見極めるのは、プロでも簡単ではありません。
だからこそ、
- 植物性タンパク質に頼りすぎていないか
- 添加物の使い方は「理由がわかる範囲」に収まっているか
- グレインフリーの言葉に惑わされず、中身を見られているか
- あまりに安すぎるフードで「将来の医療費」を増やしていないか
こうした視点を少しだけ頭の片隅に置いてもらえるだけでも、選び方の質は大きく変わります。
次回予告|
愛猫にとって最適なキャットフードとは?④|なぜ“完全肉食”の猫に植物性原材料が使われるのか?**
次回は、飼い主さんから最もよく寄せられる疑問のひとつ、
「猫は完全肉食なのに、なぜ多くのフードに植物性原材料が使われているの?」
というテーマを深掘りして解説します。
具体的には、
- キャットフードに植物性原材料が使われる“本当の理由”
- メーカー側の都合と、栄養学的な背景
- コスト調整としての“かさ増し”の実態
- 植物性タンパク質が増えることで起こりやすいトラブル
- グレインフリーでも植物性原材料が多くなるケース
- 獣医師として必ず確認しているポイント
など、知っておくとフード選びの質が一気に変わる重要ポイントを丁寧に解説します。
猫は本来、動物性タンパク質を中心とした食事に適応した“完全肉食動物”。
それにもかかわらず、なぜ植物性原材料が多用されるのか——
その理由を知ることで、ラベルを見たときの“違和感”や“疑問”がクリアになるはずです。
臨床獣医師として
“本当に安心しておすすめできるフードだけ”を厳選しました。
BASE|猫用フードカテゴリ
(アカナ・オリジンを中心に、全年齢対応・低GI・高タンパクのフードを厳選しています)
筆者プロフィール
筆者:亀森 直(かめもり なお)
獣医学博士。臨床獣医師として22年、動物病院の院長として16年の経験を持つ。
犬猫の栄養学・消化生理・腸内環境の研究を専門にし、病気予防を目的とした食事指導を多数行う。
岡山県にて「動物病院・トリミング・ペットホテル・保護猫カフェ」を複合的に運営。
自身の長年の臨床経験と科学的根拠に基づき、“本当に良いフードとは何か”を一般の飼い主にわかりやすく発信している。
